錆び付いて






 男は美しいものが好きだった。
 美しいものを美しいまま愛でるのが好きだった。


 ある時男は眩く輝く光を見つけた。
 それはまさに閃光と呼ぶに相応しい、強烈な光だった。
 姿も形も分からない、ただ輝いている。
 息が詰まった。
 涙が溢れそうだった。

 こんなにも美しいものがこの世に存在している。

 その事が堪らなく嬉しく、そして愛おしかった。
 男は思った。
 あれを手に入れたい。
 自分だけのものにしたい。
 この身の傍に置き、永久にその美しきを愛でていたい。
 だが相手は実体も掴めぬ金色の光だ。この手には余る。とても触れられない。
 美しすぎて、恐ろしかった。
 それでも、一度知ってしまったあの美しいものを、男は諦める事が出来なかった。
 そして男は考えた。
 美しくて触れられないなら、その美しい光を覆ってしまったらどうか。

 男はそれを、陽も届かぬ地下深くに閉じ込めた。
 何日も、何ヶ月も。そうしていればやがて光も弱まるだろうと。
 だがどれ程待てども、それは相変わらず美しい閃光を放っていた。
 暗闇の中にある筈なのに、その目映さに目がくらむ。

 ある日男は遂に痺れを切らして光に問うた。



 あなたは、だあれ?



 問に光は、微かに笑ったように思えた。
 そして美しい声が答える。



 カルラゥアツゥレイ。



 それが美しき光の名だった。
 男はその時初めて、光の中心に痛々しくやせ細った少女の姿を見たのだった。
 初めて、触れられるような気がした。
 男は光を、暗い地下から連れ出した。
 これで傍に置いておけると思った。
 自分のものに出来るのだと思った。

 だが光は、やはり触れられぬ程美しかった。

 その心は、限りなく自由で、奔放だった。
 傍にあっても、その瞳はこちらを見ない。
 その心がこちらを捉える事はない。
 どうしてもこの手に掴めない。
 少女の放つ光が陰る事もなく、ただひたすら、眩しく切ない。

 やはり駄目なのか。
 人の手で触れていいものではなかったのか。
 これ程近くにいるというのに。
 悲しい。寂しい。悔しい。苦しい。愛しい。
 涙が溢れた。
 溢れて、止まらなかった。

 その涙は少しずつ、ほんの少しずつ、男の心を蝕んでいった。



 どうして貴方は私のものにならないのかしら。

 どうして私は貴方の目に映らないのかしら。

 冷たくしても、優しくしても、貴方はこちらを向いてはくれない。

 私を見てはくれないのなら、いっそ。



 男は美しいものが好きだった。
 美しいものを美しいまま愛でるのが好きだった、
 だが美しいものは男を顧みないと言う。
 だから男は美しいものを穢す事で愛でる事にした。
 穢し、貶め、そうして自らも堕ちて行った。

 それでも美しいものが男の手に入る事はなく。

 男はただ悲しくて、笑った。
 とても悲しくて、笑い続けた。














歪み錆びて行く心の元は物凄く純粋なものだったじゃないかという妄想。
カルハク好きさんにはすみません!(またか)
スオンカスも大好きなんだ…。
ていうか、ひとつの作品でここまで美しいを連発したのは初めてです…おお耽美…。


臆病な10題