郷愁





「何だよひーちゃん熱あるじゃねぇか!」
「え、ホント?! もう、無理しちゃ駄目じゃないかひーちゃん!」
「夏とは言え、昨日濡れたままだったでしょう? 風邪だって引きます…もう少し自分を大切にしてください」
「うむ、美里殿の言う通りだ。仕事は俺たちに任せて、今日はもう休むといい」
「ホラふらふらしてんじゃねぇか、ったくしょうがねぇな」
「京梧、負ぶってあげてよ」
「何で俺が!」
「いっつもひーちゃんに迷惑かけてるんだから、それくらいしても罰は当たらないと思うよ」
「迷惑?! お互い様だろ?!」
「文句言わない!」
「ったく…ほれひーちゃん、乗っかれ…って、お前軽いなぁちゃんと喰ってんのかよ」
「何時も尋常じゃない勢いで流し込むようにかっ喰らってる龍斗は俺の幻覚ではないと思うぞ」
「ええ龍斗さん、何時もよく食べてますよ。何でも、料理になって出てきた食べ物を残すのは主義に反するそうです」
「いいなぁ、ひーちゃん太らないんだぁ…」
「てめーはもっと乳を肥やせ」
「京梧ォオオッッ!!」
「おわあ!! 危ねえなひーちゃん落としたらどうすんだよ」
「射る」
「落とさせるような事を止める気はねぇんだな」
「誰の所為だよ!」
「へーへー。それはそうと、何でこいつだけ熱出すんだ? 濡れたのは皆一緒だろ?」
「でも、私たちは直ぐに着替えましたから。ね、小鈴」
「うん。濡れたままだったのは男連中だけだよ。雄慶君は体が立派な分中身も丈夫なんじゃないかなぁ」
「かたじけない」
「じゃ俺は」
「馬鹿だから」
「馬鹿だから」
「おいコラ!! ……ひーちゃんまで今馬鹿だからっつったか?! 落とすぞてめぇ!!」
「落としたら射る!!」
「うふふ…小鈴ったら…」
「大丈夫大丈夫! 頭と心臓と体の中心線は狙わないから!」
「小鈴殿、右腕も残して置かねば戦闘で使い物にならなくなる」
「てめぇら…くそう美里まで敵か…!」











 ああ。
 こんなに愛しい日常は、二度と戻っては来ない。




「……緋勇…?」
「…………旦那…」

 額に当てられた冷たい手拭いの感触に、龍斗は重たい目蓋を擡げた。
 その顔を覗き込んできたのは鬼の頭目。
 思わず苦笑が零れる。

「すまない、起こしたか」
「いや…寝てなかったよ。さっき旦那が姐さんと入れ違いに来てくれたのも知ってる」
「…そうか……」
「つーか、鬼の頭が新参者の看病なんかに来るなよ」
「仕方が無い。どうやら俺はお前を大層気に入ってしまったようだからな」

 まるで他人事のようにしみじみと言われて、龍斗は笑った。
 そして肩の力を抜くように大きく息を吐き出すとまた静かに目を閉じる。

「物好き」
「大きなお世話だ」




 他愛無いやりとりが、涙が出るほど懐かしかった。