時代の波が押し寄せてくる。
 目には見えない嵐となって。

 時が巡る。
 渦を巻き、混沌を引き連れて。

 時が満ちる。
 やがてそこから、何かが生まれる。


 生か。

 死か。

 果ては、無限か。













因果 <1>










 熱い。
 体が熱い。
 左肩から右脇腹。
 一直線に走る、熱。
 焼けるように熱い。
 溶けてしまうのではないか。
 思うほど。
 体が熱い。
 額が。
 疼く。
 痛いのか、熱いのか。
 もう、分からなくなるほどに。



 カナシイ。






「ねぇちょいと、ちょいと兄さん」
「―――――ッッ!!」

 肩を揺すられて、目を覚ました。
 跳ね起きて、辺りを見回す。

 ここは、何処だ。
 薄暗い。
 夜の闇を覆う分厚い雲が、月の光さえ奪ってしまっているのか。
 雨の音が嫌に耳に付く。
 雰囲気から察するに、何処かの山小屋か。

 …山小屋?

 俺は、江戸にいた筈だ。
 あの、寺に。
 そこで。
 そこで戦闘になって。
 戦闘に、なって――――、


 ドクン。


 何だ。
 何が起きた。
 俺は。
 俺は確かに。


 ドクン。


 脳裏を掠める、紅。

 天を貫く、嘲笑。

 横たわる、骸。


「―――――――ッッ!!」
「ちょいと、大丈夫かい?!」

 危うく、叫び出しそうだった。
 気が付いたら、息を乱した俺の背中を、女の手が優しく擦っていた。

「……ッ、」

 その女には見覚えがある。
 慌てて距離を取り、自分を落ち着かせる為に慎重に小屋の中を見回す。
 目の前の妖艶な女、赤い着物の女、インチキ臭い小柄な男、それと………、

 地鳴りのような鼾を響かせる、僧侶。

「ゆ……ッッ!」
「兄さん、本当に大丈夫かい? 顔色が悪い、よくない夢でも見たのかい」

 妖艶な女が心配そうに俺を伺う。








 夢 ?






「………?」

 この女、俺が分からないのか。
 何故………、

 何故?











『貴方の宿星は――――――…』










 ゆ め  ?







 否。

 否。


 あれは、ゆめ、では、ない。


 ゆめで、ある筈が、ない。




 ならば。



 これ、は ?
















『貴方の宿星はまだ燃え尽きてはいない――――――…』














 女は俺がわからない。
 わからない、のではない。

 知らないんだ。


 まだ。

 出会ってすら、いないんだ。






 そういう、事か。





 つまり、そういう事、なんだな。


 時を紡ぐ盲目の少女よ。






 今一度俺に、機会を与えてくれたのか。






 俺は自分の手を見つめる。
 微かに震えていた。
 だが、動く。

 生きている。
 俺は、まだ生きている。

 そしてあいつらも。








 生きているんだ。








『仲間を…』

「仲間を、探せ………か…」

「兄さん?」

「大丈夫、ちょいと夢見が悪くてね。」


 上等だ。


「そうかい、落ち着いたんなら、いいさ。あたしは桔梗って言うんだけど、あんたは?」


 いくところまで、いってやろうじゃないか。














「緋勇…緋勇龍斗だ」