――――――――――――――無頼漢 葉佩九龍は、むらっ気の多い人間だ。 此処で、彼の特徴を上げてみる事にする。 外見的な事を置いておくなら、先ず第一に上げられる彼の特色はその手先器用さでなかろうか。指先を細かく使う作業をさせたら、彼の右に出る者はきっとそう多くはない。道具を扱う指先、罠や鍵を解除して行く指先、銃を扱いナイフを握る指先、その動きのすべてが洗練された、実にしなやかで滑らかな動きを見せる。 そうその指先は、例え傷だらけであったとしてもとても美しいものなのだ。 しかし。 しかし、と彼をよく知る者は言う。 彼の最大の欠点は、仕事以外には呆れる程雑把なその性格にあると。 それはその彼の相棒である皆守甲太郎が、初めて彼の運転する車の助手席に乗った時の事だ。 「おい!ちゃんと前を見ろ!信号!」 「大丈夫だって、これくらい」 「馬鹿言うな!」 「心配性だなぁ…あ、いけね、ここ曲がるんだった」 「ウィンカー出せ!つーか急にハンドル切るな!!」 「ゆっくり切ったら曲がりきれないよ?」 「そういう問題じゃねぇ!もっと考えて……前見ろ前!!」 「えー…」 「えーじゃねぇ!お前、ちょっと路肩寄せて運転代われ!社会の迷惑だ!!」 「失礼ねー」 「失礼なのは交通ルールを作った先人たちへのお前の態度だと俺は全力で主張しよう!!」 「わお甲ちゃん顔真っ青よー?大丈夫ー?」 「……お前、後幾つ傍迷惑な免許を持ってる…」 「四輪と二輪の類は全部持ってるよ。シップとヘリとセスナも。それとねー」 「…まだあんのか!」 「多才でショ」 「冗談じゃない!その免許俺も全部取るぞ!お前に舵ハンドル操縦桿は握らせねえ!!」 「えぇー」 それ以来本当に、皆守は短期間で葉佩が所持するすべての免許を取得し、彼と行動を共にする時は決してドライバーシートを譲らなかったと言う。 「つまんなーい」 「……我慢しろ。罪のない良心的ドライバーの為だ」 「運転するの好きなのに…」 「……砂漠くらいだったら譲ってやる。あとは一人で二輪でも乗り回してろ。いいか、俺を巻き込むなよ」 「ちぇー…」 「……」 彼をよく知る者は言う。 彼は器用なのではなく、姑息なのだと。 「社会不適合野生生物(既にヒトですらない)」 貼られたレッテルをものともせず、彼は今日も嬉々として何処かの遺跡に潜っている筈である。 彼の相棒の胃袋の無事を祈る。 |
誰の視線かは謎
きっとその時一緒に乗車してたハバキの先輩か同僚
運転が下手なのではなく、雑。
05.10.25